船と妻と洋上の寿司

船と妻と洋上の寿司

小型船舶免許1級を持ち、週末の大半は家族と離れてマリーナに通い、東京湾でのボートステイを楽しむ生活をしばらく続けて来た私が、子育て完了をきっかけに一念発起、「これからは、妻と共有できる鮮やかな思い出をいっぱい作ろう!」と検討したのがクルーズ船の旅。様々な船会社が運航する旅程と費用の関係を調べてみると、意外にリーズナブル。でも、ビギナーなので欲張らず、仕事の調整をつけて臨んだのは、鹿児島周り、釜山でターンして帰ってくるダイアモンドプリンセス号のショートクルーズでした。
出航当日のわくわく感は今でも蘇ってきます。横浜港の大桟橋を離岸する前から、私はバルコニーに貼りつき、港湾作業のロープワークやタグボートの働きぶりに釘付け状態でした。そして、その後の航行が続く中で、クルーズ船の旅をより上質なものに仕上げていくコツが少しずつわかってきたように思います。事前には、「船に身を委ねて、ゆったり静かな日常を過ごす旅」みたいな想像があり、もちろん、そうした部分でも期待通りの満足感が得られたのですが、プライベート空間の客室から一歩出たら、そこは、手作りイベントから本格エンタテインメントまで用意されている濃密な街=「ミニ・ラスベガス」と言っていいくらいの非日常空間です。見事にプログラムされた数々のアクティビティに身を投じて、能動的にチャレンジしてみないともったいと痛感したのです。絵画オークションの余興枠?で、妻がハラハラしながら見守る中、トッド船長が我々の予定航路を線引きしたという世界に一つしかない大判の海図を安価で競り落とした興奮は忘れられません。
加えて、船内のパブリック空間は、とても深みがある人生を送って来たと思しき方々と出会える人間交差の場でもありました。原子力発電事業に関わり、その便益に伴う危険性をレストランの席で熱弁された大先輩男性。車椅子で教え子と一緒に参加され、下船後に著書を送ってくださった元教員の先輩女性…また、船でお会いしたいものです。
最後に、食いしん坊の我々にとって、本格ディナーを楽しめるダイニングやカジュアルに食事ができるブッフェを自由に選択して利用できる環境は、まさにパラダイスでした。有料のささやかな贅沢ではありましたが、妻への日頃の感謝を込めて海寿司さんを予約、握っていただいた洋上の寿司…罪滅ぼしのワサビもきいて、格別の味でした。

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